これは、俺が前に働いてたコールセンターでの話。

夜勤専門の部署で、クレーム対応がメインだった。
人が嫌がる仕事だからか、夜は妙に静かで、電話が鳴らない時間も長い。

その会社には少し変わったルールがあった。

すべての通話は録音される。

まあ普通なんだけど、問題はそこじゃない。

録音データは毎朝、管理者が確認して、「異常通話」がないかチェックする決まりだった。
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最初はクレーマー対策だと思ってた。
でも、ある日先輩がぽつっと言った。

「たまにさ、誰も出てない通話が残るんだよ」

意味がわからなかった。

「いや、着信はある。でも誰も話してない。なのに録音時間だけ長いの」

いたずら電話だろ、って笑ったら、先輩は笑わなかった。

「ノイズでもないんだよな……」

それが起きたのは、俺の夜勤三週目。

午前3時過ぎ。
一番眠くなる時間。

電話が鳴った。

ディスプレイには番号非通知。

出ると、無音。

よくあるやつだと思って、マニュアル通り言った。

「お電話ありがとうございます」

返事なし。

でも、切れない。

普通は数秒で切れるのに。

ヘッドセット越しに、微妙な音がした。

……空気?

いや違う。

呼吸音だった。

小さくて、遠い。
マイクから離れた場所で、誰かが息してる感じ。

「もしもし?」

言った瞬間、呼吸が止まった。

完全な無音。

そのまま、プツッと切れた。

通話時間は3分12秒。

変な電話だったな、で終わった。

その時は。

朝、帰る前に管理者に呼ばれた。

「昨日の通話、ちょっと確認いい?」

再生された録音。

最初は普通だった。

俺の声。

「お電話ありがとうございます」

無音。

ここまでは同じ。

でも。

次の瞬間、背中が冷えた。

録音には、はっきり入っていた。

呼吸音じゃない。

声だった。

小さく、女の声。

「……やっと出た」

俺、何も聞いてない。
絶対に。

管理者が顔をしかめた。

「これ、お前返事してるよな?」

再生が進む。

俺の声が流れる。

「もしもし?」

その直後。

録音の中でだけ、女が言った。

「後ろ」

そこで音声が終わった。

通話終了。

ノイズなし。
編集もなし。
完全な生データ。

「イタズラかな」と管理者は言ったけど、声が震えてた。

俺は笑えなかった。

なぜなら。

その録音、最後に小さく入ってた音。

椅子が軋む音。

それ、電話越しじゃない。

俺の席の後ろから鳴る音だった。

その日から、夜勤中ずっと背後が気になるようになった。

でも何も起きない。

一週間くらいして、忘れかけてた。

そしてまた、非通知。

午前3時。

出た。

無音。

すぐ切ろうと思った。

その瞬間。

ヘッドセットじゃない。

耳元で直接。

女の声がした。

「ねえ」

振り返った。

当然、誰もいない。

震えながら通話ログを見た。

通話時間。

0秒。

着信履歴も残ってなかった。

怖くなって辞めた。

半年後、元同僚と飲んだ時に聞いた。

あの席、今は使われてないらしい。

理由を聞いたら、そいつが言った。

「新しい人がさ、録音チェックで気づいたんだって」

「何に?」

「お前の最後の勤務日の録音」

俺、その日は電話取ってない。

でも録音は残ってたらしい。

再生すると、無人の席の環境音だけ。

しばらくして。

椅子が軋む音。

そして女の声。

はっきり。

「次の人、来たよ」




蹴りたい