妻がいなくなった翌朝から、保育園の連絡帳は僕が書いている。
結衣は四歳になる。
朝食、睡眠、体温、機嫌。
今までは妻に任せていたので、最初は何を書けばいいのか分からなかった。
最初の日、先生からこう書かれていた。
「お昼寝の前に泣いてしまいました。『ママに会いたい』と何度も話していました」
僕は、なるべく落ち着いた字で返事を書いた。
「妻は実家に戻っています。急なことで、娘もまだ受け入れられていないのだと思います」
園には、そう説明するしかなかった。
結衣は四歳になる。
朝食、睡眠、体温、機嫌。
今までは妻に任せていたので、最初は何を書けばいいのか分からなかった。
最初の日、先生からこう書かれていた。
「お昼寝の前に泣いてしまいました。『ママに会いたい』と何度も話していました」
僕は、なるべく落ち着いた字で返事を書いた。
「妻は実家に戻っています。急なことで、娘もまだ受け入れられていないのだと思います」
園には、そう説明するしかなかった。
あの夜、僕たちは少し揉めた。
結衣には寝室にいるように言ったのに、あの子はふすまの隙間から、ずっと和室の方を見ていた。
子どもは、変なところだけよく覚えている。
次の日の連絡帳には、少し気になることが書かれていた。
「結衣ちゃんが『ママはおうちにいる』と言っていました。和室の押し入れを気にしている様子があります」
僕は少し迷ってから、こう書いた。
「母親と離れた不安から、そう言っているのだと思います。家でも押し入れの前に座ることがありますが、危ないので注意しています」
和室の押し入れは古い。
奥の板が一枚だけ外れるようになっていて、その向こうに配管を見るための狭い点検口がある。
子どもの頃、父からは、絶対に触るなと言われていた。
大人が長くいる場所ではない。
もちろん、そんなことを連絡帳に書く必要はない。
その夜、結衣が台所からコップを一つ持って、和室に行こうとした。
「何してるの」
そう聞くと、結衣は困った顔で言った。
「ママ、のどかわいたって」
子どもは残酷だ。
大人が終わらせようとしている話を、毎日、平気で元に戻してくる。
僕はコップを取り上げて、結衣を布団に戻した。
その翌日、先生の字は少し硬くなっていた。
「可能であれば、お母様とも一度お話しできますでしょうか。結衣ちゃんの様子について共有したいことがあります」
面倒なことになってきたと思った。
妻のスマホは、まだ家にあった。
和室の低い棚の上に残っていた。
ロック番号は、結婚記念日のままだった。
園には、妻の番号から連絡すればいい。
ただ、先生は「お母様とも」と書いている。
文字だけでは済まないかもしれない。
妻は電話に出る時だけ、少し声が高くなる。
「いつもお世話になっております。結衣の母です」
夜中、廊下の明かりだけをつけて、小さく練習した。
録音して、聞いて、消した。
何度か繰り返すうちに、自分でも少し似ていると思った。
最後の一回だけ、消す指が止まった。
「いつもお世話になっております。結衣の母です」
録音を止める前に、廊下の奥で押し殺したような咳がした。
和室の方からだった。
結衣には寝室にいるように言ったのに、あの子はふすまの隙間から、ずっと和室の方を見ていた。
子どもは、変なところだけよく覚えている。
次の日の連絡帳には、少し気になることが書かれていた。
「結衣ちゃんが『ママはおうちにいる』と言っていました。和室の押し入れを気にしている様子があります」
僕は少し迷ってから、こう書いた。
「母親と離れた不安から、そう言っているのだと思います。家でも押し入れの前に座ることがありますが、危ないので注意しています」
和室の押し入れは古い。
奥の板が一枚だけ外れるようになっていて、その向こうに配管を見るための狭い点検口がある。
子どもの頃、父からは、絶対に触るなと言われていた。
大人が長くいる場所ではない。
もちろん、そんなことを連絡帳に書く必要はない。
その夜、結衣が台所からコップを一つ持って、和室に行こうとした。
「何してるの」
そう聞くと、結衣は困った顔で言った。
「ママ、のどかわいたって」
子どもは残酷だ。
大人が終わらせようとしている話を、毎日、平気で元に戻してくる。
僕はコップを取り上げて、結衣を布団に戻した。
その翌日、先生の字は少し硬くなっていた。
「可能であれば、お母様とも一度お話しできますでしょうか。結衣ちゃんの様子について共有したいことがあります」
面倒なことになってきたと思った。
妻のスマホは、まだ家にあった。
和室の低い棚の上に残っていた。
ロック番号は、結婚記念日のままだった。
園には、妻の番号から連絡すればいい。
ただ、先生は「お母様とも」と書いている。
文字だけでは済まないかもしれない。
妻は電話に出る時だけ、少し声が高くなる。
「いつもお世話になっております。結衣の母です」
夜中、廊下の明かりだけをつけて、小さく練習した。
録音して、聞いて、消した。
何度か繰り返すうちに、自分でも少し似ていると思った。
最後の一回だけ、消す指が止まった。
「いつもお世話になっております。結衣の母です」
録音を止める前に、廊下の奥で押し殺したような咳がした。
和室の方からだった。
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竹田の子が 皇室入りか・・