1966年8月21日、ブラジル・ニテロイ。警察と消防がモーロ・ド・ヴィンテムの頂上付近へ到着すると、空き地に二人の男性が並んで倒れていた。
二人ともスーツの上に雨合羽を着ていた。そばに置かれていたのは、水のボトル、タオル、アルミ箔で作った簡素なコップ、そして目の部分に穴がない二つの「鉛の仮面」。ポケットからは「18時30分にカプセルを飲み、金属を保護し、合図を待つ」と読めるメモが発見された。
遺体に目立った外傷はなく、現場にも争った跡はない。殺人現場らしい乱れの代わりに残っていたのは、決められた手順が実行された形跡だった。
最も筋が通るのは、二人が薬物か毒物を使った実験を行い、その最中に事故死したという説だ。しかし、それだけでは説明できない。カプセルの中身、消えた大金、そして二人が待っていた「合図」の正体が残るからだ。

画像:ブラジル政府 / Wikimedia Commons (PD-Brazil-Gov)
目の穴がない「鉛の仮面」と、18時30分の指示
死亡していたのは、マノエル・ペレイラ・ダ・クルスとミゲル・ジョゼ・ヴィアナ。二人ともカンポス・ドス・ゴイタカゼスでテレビや無線機器を扱う電子技師だった。
事件名の由来となった仮面は、眼鏡に似た形をしているが、目の部分に穴はない。装着すれば視界は完全に塞がれる。
二人が仮面を着けたまま死亡していたと書かれることもあるが、当時の現場記録では、仮面は遺体のそばに置かれていたとする資料が多い。
一人のポケットから見つかったメモには、ポルトガル語でこう書かれていた。
16:30 Hs. está local determinado.
18:30 Hs. ingerir cápsula após efeito,
proteger metais aguardar sinal máscara.
原文には句読点がない。どこで区切るかによって意味が変わるが、日本語に直せば、おおむね次のようになる。
16時30分、指定された場所にいる。
18時30分、カプセルを飲む。
効果の後、金属を保護する。
合図を待つ。仮面。
「合図を待ってから仮面を使う」のか、「仮面からの合図を待つ」のかさえ分からない。
確かなのは、二人が18時30分にカプセルを飲み、その後に起きる何かを待とうとしていたことだ。

二人の行動には「帰るつもり」が残っていた
二人がカンポスを出発したのは8月17日。家族には「サンパウロで中古車と電子部品を買う」と説明し、230万クルゼイロという大金を持って家を出た。
ところが、二人が乗ったバスの目的地はサンパウロではなくニテロイだった。
午後に到着すると、まず電子部品店を訪れた。目的の部品は見つからず、その後、二着の雨合羽を購入している。「雨も降っていないのに雨合羽を買った」と紹介されることがあるが、当日は天候が崩れ、購入時にも雨が降っていたとする記録が残っている。
二人はさらに、丘の近くの店でミネラルウォーターを買った。店員によれば、二人は急いでおり、特にミゲルは何度も時計を確認していたという。それでも空き瓶を返した際に保証金を受け取れるよう、わざわざ領収書を求めた。
その後、二人はモーロ・ド・ヴィンテムへ向かった。メモに書かれた「指定された場所」へ、16時30分までに到着するためだったと考えられる。
領収書一枚で二人の考えまでは断定できない。それでも、空き瓶を返すつもりだった行動は、死を予定していた人物とは結びつきにくい。二人は実験を終えた後も、生きて丘を下りるつもりだったのだろう。
画像: Governo do Rio de Janeiro / Wikimedia Commons ( CC BY 2.0 BR )
鉛の仮面は二人が自作していた
鉛の仮面は、現場で初めて現れた物ではなかった。
マノエルの妻は、出発前に二人が作業場で鉛板を加工していたと証言している。作業場からは切断した鉛の残片や、別の仮面も見つかったとされる。
二人は精神世界や宇宙との交信に関心を持ち、過去にも人里離れた場所で実験を行っていた。当時のブラジル紙『Correio da Manhã』は、警察が二人について、薬物や自作のカプセルを使い「霊の世界との交信」を試みていた可能性を捜査していると報じた。
二人は技術者でありながら精神世界を否定せず、むしろ技術で確かめようとしていた。鉛を切って仮面を作り、服用時刻を決め、実験の手順をメモに残した。
鉛の仮面は、偶然現場にあった物ではない。二人が何かから目を守るため、必要だと考えて準備した道具だった。
毒物検査ができず、死因は特定不能に
二人の遺体が警察へ通報されたのは8月20日。悪天候と険しい地形のため、警察と消防が現場へ到達したのは翌21日だった。
死亡したのは17日から18日ごろとみられ、発見時には遺体の腐敗が進んでいた。さらに臓器の保存や検査も適切に進まず、カプセルの中身を調べる毒物検査は実施できなかった。
「毒物は検出されなかった」と紹介されることがあるが、正確ではない。毒物がなかったのではなく、腐敗のため、毒物の有無そのものを確認できなかったのだ。
明確な外傷がなく、メモにはカプセルを飲む指示がある。二人が何らかの薬物か毒物を服用し、その作用によって死亡したと考えるのが最も自然だ。
鉛の仮面やUFO証言が事件を有名にした。しかし、事件を未解決にした直接の理由は、死因を確かめる機会が失われたことにある。「原因不明」は超常現象の証拠ではなく、検査で結論を出せなかったという意味である。
最有力は薬物事故。それでも三つの謎が残る
薬物事故説なら、暴力を受けた形跡がないこと、カプセルの指示、二人が自作した鉛の仮面を説明できる。
残された三つの謎
・カプセルの中身
・持ち出した現金の行方
・メモに書かれた「合図」の正体
カプセルに入っていたのは、幻覚を見るための薬物だったのか。それとも、二人が誤って毒性の強い物質を調合したのか。検査が行われなかったため、現在では確かめようがない。
現金についても不可解な点がある。現場には一部が残されていたが、持ち出した230万クルゼイロの大部分は見つからなかった。誰かが持ち去ったのか、ニテロイ到着後に何かを購入したのかも分かっていない。
最大の謎は、メモに書かれた「合図」である。
二人だけで考えた実験なら、何を合図と呼んでいたのか。誰かから手順を与えられたのなら、その人物はなぜ現場にいなかったのか。
ここから、第三者が二人を実験に誘い、カプセルを飲ませた後で金を奪ったという説も生まれた。だが、現場に争った跡はなく、第三者の存在を直接示す証拠もない。
UFO目撃証言は決め手にならない
二人が死亡したとみられる時間帯、モーロ・ド・ヴィンテム上空にオレンジ色の発光体が浮かんでいたという証言もある。
鉛の仮面、電子技師、謎の合図、空に現れた光。これらをつなげれば、二人がUFOとの接触を試みていたという物語が完成する。
ただし、目撃情報が警察へ伝えられた時期は資料によって食い違う。事件が大きく報道された後の証言であれば、以前に見た光が、後から鉛の仮面事件と結びついた可能性もある。
UFO説は事件の異様な遺留品を一つの物語へまとめてくれる。だが、物語としてのまとまりと、証拠の強さは同じではない。
本当に異様なのは、すべてが「手順どおり」だったこと
この事件で本当に異様なのは、空に何がいたかではない。
二人が水を買い、時計を確認し、丘へ登り、金属を外し、鉛の仮面を用意し、決められた時刻にカプセルを飲もうとしていたことだ。
現場の遺留品は、互いに無関係な物ではなかった。水、タオル、外された金属、鉛の仮面、服用時刻を記したメモ。そのすべてが、一つの実験手順を示している。
二人は混乱して丘へ迷い込んだのではない。何かが起きると信じ、自分たちで準備した道具を持ち、指定された時間に間に合うよう行動した。
死因は薬物か毒物による事故だった可能性が高い。それでも、18時30分の手順がどこから来たのかは分からない。
あの計画を考えたのは二人自身だったのか。それとも、丘の外にもう一人いたのだろうか。

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